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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)89号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の当否を検討する。

1 成立に争いない甲第五号証(昭和六三年三月一日付け手続補正書中の明細書)によれば、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、左記のような記載が存することが認められる(別紙図面一参照)。

(一) 技術的課題(目的)

本願考案は、蛋白質溶液とクロツト(血餅)促進凝固因子溶液を合わせることによつてその場で形成される。組織接着剤を適用する装置に関する。なお、右組織接着剤は、人間又は動物の組織又は器官部分を継目なく(又は、継目を補助するように)接合したり、傷をシールしたり、出血を止めたりする目的で使用されるものである(第二頁第一六行ないし第三頁第四行)。

この種の装置は引用例1によつて公知であるが、各シリンジ体の円錐部がY字状部材に挿入され、同部材において組織接着剤の二成分が混合されるので、射出を短時間でも中断すると、Y字状部材における組織接着剤の硬化を避けることができない(第四頁第八行ないし第一四行)。

本願考案の課題は、従来技術の右問題点を解決し得る装置を創案することに存する(第四頁第一八行ないし第二〇行)。

(二) 構成

右課題を達成するため、本願考案はその要旨とする構成を採用したものである(第一頁第六行ないし第二頁第八行)。

その要点を一実施例によつて説明すると、シリンジ体1、2の円錐部25、26は、集合ヘツド29の円錐形差込部27、28に突入接合される。集合ヘツド29には、隔離されたコンベヤ流路30、31が、円錐形差込部27、28から、他端部に設けられたスリツプオン円錐ヘツド32まで通じている。そして、スリツプオン円錐ヘツド32の前端部35には、コンベヤ流路30、31の出口33、34が、非常に接近して設けられるのである(第八頁第五行ないし第一三行)。

(三) 作用効果

本願考案によれば、片手操作によつて同時に各接着剤成分を適用することができ、確実な混合が達成され、裂傷部位に到達する前の各成分の早期硬化を防止し得る(第四頁第二〇行ないし第五頁第三行)。

すなわち、親指で作動手段17を押圧すると、各成分の所定量がシリンジ体1、2から注出されるが、コンベヤ流路30、31の出口33、34の間隔が僅かなものであるから、二溶液の即時接触が生じ、混合効果は最適なものとなる。そして、一回のシリンジ装填による接着剤の適用は、断続的、あるいは連続的の、いずれの方式によつても行うことができる(第八頁第一六行ないし第九頁第二行)。

組織接着剤の適用を中断する場合は、混合ニードル36を交換しなければならないが、集合ヘツド29は続けて使用することができる。このようにして、本願考案によれば、ほとんどの分野における組織接着剤の適用が可能となるのである(第九頁第一〇行ないし第一四行)。

2 一方、引用例1に審決認定の技術的事項が記載されており、本願考案と引用例1記載の発明が審決認定の諸点において相違することは、原告も認めて争わないところである。そして、審決は、相違点<3>の判断において、「相違点<3>に係る本願考案の構成は、引用例2及び引用例3にも記載されているとおり、本件優先権主張日前の周知技術である」との趣旨を説示しているのである。

この点について、原告は、「引用例2あるいは引用例3記載の構成が一見、相違点<3>に係る本願考案の構成に類似する」ことは認めながらも、「引用例2あるいは引用例3記載の発明は、本願考案とは技術的課題を異にする」と主張する。

そこで検討するに、成立に争いない甲第一〇号証によれば、引用例2記載の発明は、「二本のプランジヤーシリンダを備えた医科用注射器」に関するものであつて(第一頁頭書き)、別紙図面三に示す一実施例のような構成、すなわち「二本のプランジヤーシリンダを備えた医科用複式注射器において、二本のプランジヤーシリンダが、共通の先端部材において別々の吸・注入口を有すると共に、先端部材に接続される注射針又はカニユーレを介して相互に連絡される構成」(第二頁右欄第五行ないし第一一行)を採用することによつて、シリンダ内容物を空気あるいは感染物質と接触させることなく、かつ、注射器を患者の被処置部位から離脱することなしに吸入と注入を行い得るほか、二本のシリンダから同時に(もしくは交替で)注入し、又は、二本のプランジヤーを交互に調整することによつて、吸入される体液と、他方のシリンダ内の薬剤を完全に混合し得るとの作用効果を奏するものと認められる(同頁右欄第一一行ないし末行)。

また、同じく成立に争いない甲第一一号証によれば、引用例3記載の発明は、「医療方法及び装置」に関するものであつて(第一頁頭書き)、「互いに接触した際、あらかじめ定められた方法で反応する性質を有する医薬物質を、それらの混合が有効に制御されるキヤビテイに導入する」、あるいは「適用前又は適用時に、二つ又はそれ以上の種類の医薬物質を適当な割合で混合操作する」ことなどを目的とする方法ないし装置の創案を目的として(第一頁左欄第二七行ないし第三八行)、別紙図面四に示す一実施例のような構成を採用したものと認められる。ちなみに、図1は、二重構造のシリンダ及び管路、並びに装填された混合チヤンバによつて放出運動が準備された状態を示し(第一頁左欄第四九行ないし第五五行)、図5は、各シリンダに異なる薬剤を充填する方法を示す(第一頁右欄第一〇行ないし第一二行)。そして、第三頁左欄第五六行ないし第五八行には、「望むならば、二つの物質はシリンジから放出されるまで混合されないようにすることができる。」と、第三頁右欄第二七行ないし第三一行には、「両シリンダから放出される材料は(中略)前もつて互いに(中略)接触させることなく、注射前又は注射時に混合され得る。」と、各記載されていることも認められる。

そうすると、引用例2あるいは引用例3記載の発明が、本願考案が対象とする複成分型組織接着剤のように、混合後の極めて短時間に固化する二液を直接の対象とするものではないことは、原告が主張するとおりである。しかしながら、引用例2及び引用例3記載の発明が、「二本のシリンジ内に収納される二液を、各シリンジから放出されるまでは接触混合させないこと」を、その技術的課題の一つとして明確に捉えており、右課題を解決するために有効な手段を開示していることは、明らかである。そして、複成分型組織接着剤が本件優先権主張日前に周知であつたことは、審決が相違点<4>の判断において説示するとおりと解されるところ(この点は、原告も争つていない。)、成立に争いない甲第九号証によれば、引用例1には、「蛋白質はメチル2―シアノアクリレートモノマーの重合化を開始するに十分な水分を含んでいるので、両者は、接着によつて治療しようとする破損組織部位における混合が行われるまで、分離した状態に保つべきことが指摘される。それゆえ、二つの成分は、破損組織部位において混合されるまで、分離状態に維持される。」と記載されているのである(第四欄第四一行ないし第四八行)。このようにみてくると、原告が本願考案に独自のものとして主張する「二液の混合をニードル内においてのみ行い、ニードルに至るまでの経路における二液の混合は絶対に防止する」との技術的課題が当業者にとつて予測困難な事項であつたとは、到底考えられない。

以上のとおりであるから、引用例2あるいは引用例3記載の発明が本願考案と技術的課題を異にすることを論拠として相違点<3>の判断の誤りをいう原告の主張は理由がなく、引用例2あるいは引用例3記載の技術的事項を引用例1記載の発明に適用することの予測性を肯認した審決の認定及び判断は、正当というべきである。原告の本訴における主張は、要するに、審決に説示されている審判請求理由と同旨に帰着するものであつて採用することができない。

三 よつて、審決の違法を理由としてその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。

〔編注〕本願考案の要旨は左のとおりである。

一端部に円錐部(25、26)を形成している。複数の合成材料から成る標準化ワンウエーシリンジ体(1、2)が、保持手段(3)により保持されており、

人間若しくは動物の組織あるいは器官部分を継目なく、又は継目を補助するように接合する、蛋白質溶液とクロツト促進凝固因子溶液とを合わせることにより、その場で形成される複成分型人間若しくは動物組織接着剤を適用する装置において、

各シリンジ体(1、2)の円錐部(25、26)に、形状安定材料から一体的に形成された集合ヘツド(29)を接続し、

前記集合ヘツド(29)に、各シリンジ体の円錐部から放出される組織接着剤の各成分を別々に輸送するコンベヤー流路(30、31)を設けると共に、その一端部にスリツプオン円錐部(32)を設け、

該スリツプオン円錐部(32)の前端部(35)に、各コンベヤー流路(30、31)の出口(33、34)を近接して配置すると共に、着脱容易に混合ニードル(36)を装着し、前記各シリンジ体(1、2)に内蔵されるプランジヤー(20、21)を共通に作動可能としたこと

を特徴とする、人間若しくは動物性蛋白質を主成分とする組織接着剤を適用する装置

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